「非現屋」 -3ページ目

電車男よりも、もっと頑張れ日本のお父さん! -『fly,daddy,fly』金城 一紀


電車男よりも、もっと頑張れ日本のお父さん!
  団塊の世代ってかわいそうな世代である。戦後のベビーブームに生まれた彼らは

モノのない時代に ハングリーに育ち、学生時代は学生運動の渦に巻き込まれ、かと

思えば会社に入社しバブルに踊ら され、そのバブルが崩壊した直後は日本初の大

リストラのメインターゲットになってしまう。

 

  しかも、定年後に引退した彼らが平穏である約束はない。なにしろ彼らは「日本初

の高齢化」を 養われる側から経験するからである。私はふと、「団塊の世代が年金

受給開始前に全員死ねば、 日本の目下の問題は解決する」と思ったことがあるが、

日本の高度成長を支えた世代への仕打ち としては、あんまりである。

 

  現代の日本では「オヤジ」という言葉は肉親、友人に使うのではない限り、総じてネ

ガティブな 意味を含んでいる。オヤジの権威が失墜したのはいつからなのか、これは

良く分からないけれど も、時代によっては無条件で尊敬され得た年齢になったのにも

関らず、アンラッキーな団塊の世 代はダサい呼ばわりされる羽目になったわけだ。


 「こんなことが人生に起こるとは思わなかったろ?せいぜい自分の半径1メートルの
ことだけ考えて 死んでいけたら幸せだったのにな。」 ―――朴 舜臣

  さて、今日はそんな団塊の世代への応援書として、この「fly daddy fly」を推薦したい。

 タイトルを直訳すれば、「飛べ!とうちゃん、飛べ!」ダサい呼ばわりされている日本の

オヤジさん達、あなたは飛べるんですよ!

 

  舞台は日本。主人公は47歳のサラリーマン、鈴木一。平凡に暮らしていた彼の箱入り

娘が ある日突然強姦魔に襲われてしまう。相手の顔も名前も分かっている。なのに警察

も、学校 も、病院も協力してはくれない。なぜなら、犯人はとある高校のスタースポーツ

選手だったか らだ。

 

 ジリジリと焼け付くような日々を送っていた彼は、とある行動がきっかけで、これまたと

 ある落ちこぼれ連中と知り合い、最終的には「犯人」とバーリートゥードで対戦することに

なる のであった。

 

   恐らく、上述のあらすじを読んで「この作者、頭おかしいんじゃないか?」と思った方も

いる だろう。こんなムチャクチャなプロット成立するか、と。そう、確かにこの本のストーリ

ーは距離を置いて見ると不可能だが、入りこんで見ると見事に成立する。


  自分が父親としてカッコイイって思えた瞬間て、あるか?

 ―――鈴木 一


  その「入り込む」のを助けてくれるのが、魅力的なキャラクターであろう。

まずは主人公の 鈴木 一。はっきり言って、本書冒頭の彼は間違いなくダサイオヤジである。

が、決意を固め 修行を重ねることによって、彼は少しずつ成長(若年退行かな)してゆく。

そのもどかしさとい うかなんというか。思わず「頑張れよ!」って言いたくなってしまう。

 

  因みに重要なキャラクターである朴 舜臣は在日という設定である。仲間に優しく、そして

 強い彼の、「俺が殺せるかよ、日本人」というつぶやきはなんともいえない魅力を持っている。

他にもチワワに襲われる山下。マニーとペニスが武器だと公言するアギー等々、底なしに 陽

気ながら、どこか独特の影を持つキャラクターを描くことにおいて、著者は突出している。

 

  皆さんは、「俺はやれば出来る」とかつて思った分野がいくつあるだろう?多分、この本を

 読んだあとはちょっぴりそういう事を思い出すと思う。この本は、「やればできる」と思ったま

 ま腐った人間が、一念過去へのリベンジを果たす物語だからだ。ファンタジーをファンタジー

 と思えないのなら、次はあなたの番になる。

 

  滑走路は、いつでも空いてますよ。

back to business

関係者各位
昨年12月より今まで一身上の都合により臨時休暇を
頂いておりました。
この度、営業を再開することに相成りましたので、
報告致します。
尚、臨時休業中のコメント、トラックバックへの返信は
時効という事でご理解お願いします。

店主 敬白

小説家予備軍への模範解答その1『ラブアンドポップ』 村上龍

小説家予備軍への模範解答その1

 【設問1】渋谷の雑踏を、描写しなさい。

 こんな問題が出題されたとして、いったいどう答えれば
いいだろう?人称は?設定は?ていうか読者は?文章が
上手な人はちょっと書いてみるのも良いかもしれない。

 「人ごみでいっぱい」を表すのに、そのまま書いてしまう
のはちょっとマズイ。自分の日記ならばまだしも文章を書
けというテストでいい点はもらえそうも無い。例えば人とぶ
つかって、「何だよ」って思ったところに人がまたぶつかっ
てくるシーンはどうだろう?

 この問題にモチロン正解なんてない。が、プロの作家の
文章は少なからず正解に近いはずだ。さて、それではこの
問題を村上龍がどう解いたのか見てみよう。

 えーと、リストは出ておりませんでしょうか、はい、はい、どうもすみません、はい、はい、はい、はい、そういうことで間違いありません、はい、はい、はい。
 何?どこ行く?
 ロフト、西武だね。
 西武だね、西武の地下行こうか。
 西武の地下。
 映画を見る?
 じゃ、そうしよう。
 そうか、付き合ってたのか。

 ―――本文より
 どうだろう?読んでの通り、渋谷の街にいたら聞こえて
きそうな会話の羅列だ。その間に、ト書きや登場人物の
会話は一切無い。カメラで機械的に音を拾っただけのよ
うなこの手法、あなたもわたしも彼らも関与しない、言
うなれば0人称である。

 本書『ラブアンドポップ』ではこの0人称が状況描写
の為に多用される。例えばファーストフード店、例えば
雑誌の内容。どう考えたって機能しそうに無いのだが、
現代カルチャーを表すのにぴったりとはまっている。

 情報の洪水。ノイズの洪水。言葉で表すと陳腐だが、
そのものを全部書いてしまうことで場面がイメージにな
り脳裏に鮮明に浮かんでくる。せわしなさやまぶしさや
忙しさを見事に表現しきっているのだ。吉本ばななをし
て「龍さん、ずるい」と言わしめたゆえんであろう。

「だって、みんなでカラオケとかしてもらったお金だから
 みんなで分けたほうがいいよ。」

 ―――吉井裕美
 この本が好きな理由はもうひとつある。それは、援助
交際をテーマに選んでおきながら、説教色が全く無い
ということだ。書く人が書けば、精神論や、宗教論を持
ち出して、貞操を説きそうなものだが、本書にそれはな
い。ありていな説教など、不要だと村上氏は分かってい
る。

 善悪を別にして、「援助交際っていったい何?それを
してるのはどんな女の子達?」という目的が貫徹される
この本は、取材もきっちり行われているのが分かる。

 物事の良い悪いにこだわると、その時点で思考は停止
する。それを許さずにただただ当初の志を忘れず、安易
に当事者を見下すことなく現場に飛び込み空気を吸う。
これをやったからこそ本書に価値があると思うし、著者
からの忠告ともいえるエピソードが俄然説得力を持つの
である。

記憶はあなたを裏切る-『目撃証言』エリザベス ロフタス(共著)


記憶はあなたを裏切る
 刑事1「ヤマさん。ホシを現場で目撃した人を見つけました!」
 刑事2「本当か?よーし。やつをすぐに逮捕しろ。」

 以上のやりとりに違和感を覚える人はいるだろうか?私は
覚える。その理由を述べる前に、ちょっと記憶について話そう。
人の記憶は変化する。しかも、ちょっとしたことで。ワシントン
大学で教授を務める認知心理学者エリザベスロフタスは、人の
記憶が変容することを実験で証明した。

 簡単に説明すると、参加者は事故のフィルムを見て、後に
それに関して紙による質問を受ける。質問のひとつに「車が
停止 の看板を通り過ぎた時、どれくらいの速度で走ってい
ましたか?」というのがある。その後には「あなたは停止の看
板を見ましたか?」という質問が控えている。

 さて、参加者のなかには見た人と、見ない人がいるわけだが、
重要な事実がある。それはフィルムに「徐行」の看板は存在す
るが、「停止」の看板は存在しないということだ!

 ある人は、似ている看板を混同してしまったかもしれない。
また、ある人は実験者の質問を鵜呑みにして、あるはずだと考え
たのかもしれない。ただ、どちらにしろ似ているだけのものを
「そのものだ」と言っているのには代わりが無い。さて、そこで
私が冒頭に覚えた違和感が分かるだろうか?

 その人は、本当に「容疑者本人」を目撃したのか?

「彼は強姦犯じゃない。被害者が時間を巻き戻したんだ。」
 ―――弁護士 ヒラー(第3章「暗黒の司法」より)
 実は、上述の実験は「事後情報効果」と呼ばれる現象に関し
ての実験で、認知心理学の世界では有名な実験だ。これを行
って、大論争を巻き起こしたのが本書の著者、エリザベスロ
フタスである。

 その大論争を逐一説明すると、一冊本が書けてしまうので
やらない。ただし、記憶が何らかの影響を受けると分かった
後で、こう想像して欲しい。それでは、実験室の外ででコレ
が起こってしまったらどんな影響があるのか?

 その「どんな影響」を記憶の第一人者として、また、法廷に
立ち証言をし続けた専門家として記したのが本書だ。目撃証言
だけで裁かれてしまう「冤罪者」達。心理学的にみて記憶にのみ
に証拠を求める裁判がどれほど危ういか警告する。


「あなたは彼が裁判にかけられる前から、有罪であることを決めてしまっているわ。」
 ―――ロフタス(第9章「イワン雷帝」より)
 記憶の専門家として法廷に立つ上で、もっともつらいのは
形上は犯罪者の肩を持つように見えてしまうところだろう。
実際に、本書の9章ではユダヤ人でもある彼女が、ナチス体
制下で悪名高かった「イワン雷帝」とおぼしき男の裁判に関
わる。

 友人知人が彼女を非難し、目撃者たちは感情的になった
挙句、偏った情報のバイアスにさらされ証言を変化させて
ゆく。ユダヤ人と専門家。2つの立場でゆれる著者は、
しかし冷静に仕事をしてゆく。

 心理学が科学ではないと言う皆さん、心理学はセラピー
やカウンセリングだけをさす言葉ではありません。

10月最後。

ご挨拶?

 今月2週目から始めて、このブログも一ヶ月になります。
最初本の在庫は大丈夫か?って思ったんですが、今のと
ころ、結構なストックがありますので、ちょっと安心。

 最初は訪問6人とかで、「もしかして俺のリロードがカウ
ントアップされてるだけか??」なんて思ってしまいました
が、今はちょっぴり増えました。日本は僕を見捨てていなか
った!し、見てくれるあなたに深謝。

 来週は旅ものか、ギャンブルものの特集でもできれば
楽しいなと思っております。

ブログ評?

 いわずと知れたモンスターサイトですが、確かジャンルが
「本・書評」なんですよ。それで「本ほとんど紹介してないの
に。」って批判を見た気がするんですが、僕はぜひこのブロ
グに賞金を与えてほしい。

 なぜか?もしも、ブログ評がジャンルにそぐわないっていう
理由で排除されたとすると、「ブログ評はだめだった。それじゃ
どこまでがセーフで何がアウトか?」というレギュレーションが
作られてしまう。しかもそれに抵触するとペナルティがあるなん
て、最悪の前例も、同時に作ってしまう。

 一例目だからおとなしい適用基準も、それが拡大解釈されて
いかないなんて誰が保障できるのか?そうなったら後は泥沼。
揚げ足取りの告発が横行していって、理論のための理論が
延々連鎖。僕らが大好きなブログ達が、くっだらない争いに
巻き込まれて閉鎖するかもしれない。

 そんな最悪の事態が起こるくらいなら、「賞金狙い」を公言
している人にジャンルトップあげるくらいなんでもないでしょ。
彼に賞金はあげといて、その間に僕らは本当に楽しい書評
ブログを楽しめる環境を守ることができる。

欲しい本?

 ほかのブログ見てて欲しくなった本は結構あります。
tsubakiさんが紹介してた、コレとか、kuroさんが紹介してた、
コレ
とか、つらいのは「あ、コレ絶対欲しいわ」って思う本紹介
されてても、書店にあるとは限らないって事かなぁ。ていうか
お二方、その本僕に売ってくださいw

 実際に買った本もあって、『アフターダーク』と『生きなが
ら火に焼かれて』が代表例。両方とも気にはなっていたん
ですけど、買ってはなかった。でも書評読んで買ってみよう
っていう気になったんですよね。

 いやぁ、書評って本当にいいですね~。